DCI 4K = 映画館規格 vs 4K UHD = リビング規格 — DCIとUHDを完全比較!

4Kテレビがリビングの標準装備になった今、制作現場で頻繁に耳にするようになったのが 「DCI 4K」 という言葉。今回は、映像製作者目線で DCI 4K と 4K UHD の“すれ違い”を改めて考えてみたい――。

「4Kなら全部同じでしょ?」と思っていると、後々痛い目を見るかもしれません。

  • DCI 4K(4096 × 2160)は映画館上映を前提に策定されたデジタルシネマ規格。
  • 4K UHD(3840 × 2160)は家庭向けテレビ放送用に策定されたUHDTV規格。

解像度も画角も色域も異なる “別モノ” です。本稿では基礎の再確認を手短に済ませ、技術仕様・ワークフロー・失敗しやすいポイント まで徹底比較。劇場公開・配信・ゲーム開発など “届けたい場所” から逆算できる決定版ガイドをお届けします。


1. 2分でおさらい — DCI 4K と 4K UHD の定義

規格主解像度画角色域(標準)主用途
DCI 4K4096 × 2160約1.90:1DCI‑P3シネマ上映、DCPマスタリング
4K UHD3840 × 216016:9(1.78:1)Rec.2020 / Rec.709地上波4K実用放送、ストリーミング、ゲーム

詳しいUHDTVの歴史や4K/8Kの基礎は、前回の記事「UHDTVとは?」へどうぞ。


2. 技術仕様を徹底比較

2‑1. 解像度 & アスペクト比

  • DCI 4K:横4,096px。シネマスコープ素材(2.39:1)を上下マスクせず収めるための余幅がある。
  • UHD 4K:横3,840px。家庭用16:9パネルに完全フィット。DCI素材をそのまま載せると左右に黒帯が発生する。

2‑2. 色域

  • DCI‑P3:sRGBより約25%広く、劇場プロジェクターの標準。
  • Rec.2020:さらに広い。UHD/HDR時代を見据えたテレビ放送規格。
    制作時にP3→Rec.2020へ変換する際は、グリーン側でクリッピングが起こりやすいのでLUT運用が必須。

2‑3. HDRとガンマ

  • DCI:従来ガンマ2.6(SDR)。HDR上映は個別仕様。
  • UHD:PQ/HLG が公式サポート。BT.2100でHDR運用が規定。

2‑4. フレームレート

  • DCI:24 fpsが標準、HFR上映は48 fps。
  • UHD:23.976 / 24 / 25 / 29.97 / 30 / 50 / 59.94 / 60 fpsと多様。

2‑5. オーディオパッケージ

  • DCI:12ch XYZ がベース (5.1/7.1互換)。
  • UHD:5.1 / 7.1 / Dolby Atmos / MPEG‑H Audio などプラットフォーム別。

3. 採用シーン別 “勝ちパターン”

シーン最適規格理由・事例
劇場公開DCI 4KDCP納品必須/P3基準。LEDシネマもP3運用が主流。
OTT配信4K UHDNetflix納品 4K 4:2:0 10bit HDR10 / Dolby Vision。
地上波4K UHD日本のBS4K/CS4Kは3840×2160・HLG HDR。
ゲームエンジン4K UHDリアルタイムレンダリング負荷とHDMI2.1互換性。
大型サイネージ両対応16:9 LEDはUHD、シネコンロビーなどはDCI。

4. マスター制作で迷わないための三大チェックポイント

  1. 画角事故
    4096→3840 変換では左右クロップかピラーボックスが必要。
  2. 色域トラブル
    P3素材をRec.2020で配信する際は ソフトクリップ+彩度ロールオフ LUTを挟む。
  3. フレームレート混在
    24 fps → 59.94 fps 異倍速変換は動き補間か2-3プルダウン。制作段階で納品fpsを決定するのが安全。

5. “詰みポイント”と回避策

黒帯・ピラーボックス問題

症状:劇場向け4096px素材を家庭TVで再生すると左右に黒帯。
回避:撮影時に室内シーンの端ギリギリに被写体を配置しない/VFX合成は安全フレームを広く取る。

HDR→SDR ダウンマッピング

症状:明部が白飛び、色相ズレ。
回避:PQ→Rec.709トーンマップ用のショット別LUTを用意。

24 fps ↔ 59.94 fps

症状:ジャダー・動き補間破綻。
回避:HFR元素材を確保、最終段で必要fpsにリマスター。


6. 近未来トレンド

  • LED Cinema の台頭
    P3/Rec.2020のハイブリッド運用が始まりつつあり、将来的には劇場もRec.2020相当の広色域へ。
  • 8K
    DCI 8K(8192 × 4320)はまだ正式規格なし。UHD側の8K放送・配信が先行。
  • IMF + OPL
    ワンマスター運用で劇場・OTT・放送向けに派生パッケージを自動生成するワークフローが主流化へ。

7. まとめ & 次の一手

一昔前なら「映画規格こそ映像技術の頂点」というイメージがありました。しかし4K時代は様子が違います
フィルム運用の影響でフレームレートが24fps前後にほぼ固定される映画業界と、120Hzクラスのハイフレームレートに舵を切り“よりリアル”を追求するテレビ/機器メーカー――同じ4Kでも思想の違いが高いレベルでぶつかり合っています

  • 同じ4Kでも「使う場所」が違えば最適規格も変わる。
  • プロジェクト開始時に 画角・色域・HDR方式・納品fps を必ず合意。
  • 詳細スペックを確認したいときは UHDTV.jp の規格シリーズをチェック!